企業というのはなぜ合併するのでしょうか。
例えば、2002年に第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の合併によって成立したみずほ銀行。2012年に新日本製鐵が住友金属工業を吸収合併して新日鐡住金が成立した事例などがあります。
ちなみに企業の合併とは、企業が他企業と互いの資本と組織を完全に一体化させる行為で、2社以上の企業が合体して1社になることです。
企業が合併する理由は様々あると思いますが、それらについて自分が考えたことを書いていってみようかと思います。
企業合併に対する一般的なイメージ
一般的にイメージする理由は、例えば
- 業務の効率化
- いろいろなものが集約できて、費用を削減できるようになる
- 今後の企業戦略的にいろいろと有利
といったものではないでしょうか?
自分もそういったことを考えていたのですが、いろいろと調べた範囲でも同じようなことが書かれていたので、まあそうなんだろうなと思って、この点は特に深く考えることもなく頭の片隅に追いやられていきました。
考えるきっかけ
ある日、ネット上でいろいろ調べていると韓国のサムスンは国内で売る商品と外国で売る商品とでかなり価格差があるとのことで、韓国の国民はそれを嫌がって「並行輸入」ということまでしているとのことでした。
並行輸入とは、その商品の国内販売権を独占している輸入総代理店に対抗して競争業者が別個の輸入ルートを開拓して輸入販売すること、といった意味です。
最初は「サムスンの評判はあまり良くないけど、そこまでするのか?」と疑問に思っていました。利益のために国内の人間を犠牲にする、といった感じですね。
これらに関する視点を通して、ある日自分の中で「合併する理由ってこれじゃないかな」と気づいた時がありました。それは『ゼミナール国際経済入門』を読んでいたときのことです。この本は読んで字のごとく国際経済学について書かれた本です。
ちなみにその意味は、国際経済学は国際取引すべてを対象とし、国境を越えた取引がなぜ行われ,どのように取引され、またそれぞれの国および個人がどのような影響を受けるかを分析する経済学の一分野、というのが辞書的な意味です。
企業が合併する理由
それで、本書の以下の文
内外格差の問題
p.368
内外格差の問題
このように、国によって価格に対する反応の違いがあるときには、それぞれ地域で異なった価格をつけることは、十分に合理的な企業行動なのだ。ただし、ここでの議論は、商品が海外から逆流してこないという前提のもとでの話しである。もし商品が逆流してくるようだと、このような価格差別はできない。
たとえば、日本製の商品の値段がアメリカでの方が安くなってしまい、それが日本に逆流して安売り店の店先に並んでメーカーがあわてるということがしばしばある。このような逆流があると、価格差別は成立しない。
日本の流通機構に対する批判のひとつとして、内外価格差の問題が取り上げられることがある。確かに、一部のブランド品の国内価格は海外より相当高い。
日本製のカメラやステレオなどもアメリカの方が安い時期があり、日本の国会議員が渡来したとき、現地でわざわざ日本製のカメラを買ったという報道もされていた。
このような現象も、価格差別の理論でうまく説明できる。日本の消費者の方がブランド志向が強ければ、企業としては日本でより高い価格をつける誘因を持つ。ある意味で、日本の消費者はそれだけ搾取されているのである。」
コスト割れ販売
コスト割れ販売
国内では独占的な地位にあるが、海外では多くのライバルと競合関係にある企業を考えてみよう。またこの企業は巨額の固定費用を抱えているため、製品の単位生産コスト(総費用を生産量で割ったもの、すなわち平均費用)は、追加生産のためのコスト(すなわち限界費用)より相当大きくなっているとしよう。
具体的には、鉄鋼産業のような重厚長大産業を念頭に置けばいだろう。このような企業が国内では比較的高い価格設定をしているとしてみよう。そうしないと固定費用をカバーできないし、国内市場に独占力を持っていれば、そのような価格づけも可能である。」
「なるほどぉ、そういうやり方があるんだぁ」と目から鱗が落ちました。
自分は今まで効率よくモノを売るためのターゲットを定める時は、ある一定の区分、地域、人口統計学的、心理学的に分けて考えるものだと思っていました。要はそれ程、広くなく、狭い範囲みたいなイメージがありました。
しかし、サムスンの事例や本書では、国によって価格差をつけて商売をするやり方があると。今まで国レベルでターゲットを区分するという発想がありませでした。この知識を得たおかげで特に大企業が合併する理由の一つがわかった気がします。
上記の引用文を加味した、合併するいくつかの考えられる理由は
- 合併によって国内の過当競争を避ける
- 国内において、合併を通して寡占状態をつくり、国内では高く価格設定をし
て、国外では固定費を賄える範囲であれば十分の価格設定をするといったことが考えられます。
なるほど、合併ってそういう効果もあるんだなぁと思いました。
どの企業が国外の値段と比べてどれだけ国内の価格を高く設定しているかわかりませんが、どこかしらやっているのでしょう。まぁそこまでいくということは経営環境が以前と比べてどれだけ厳しくなっているか、というひとつの指標とも言えるかもしれません。
今後は環境の厳しさから、まだまだ合併していく企業はあるかもしれませんね。これからは、少数の超大規模な企業対無数の非常に小さい中小企業や個人という構図になっていくのかもしれません。
あわせて読みたい
- 日本企業がキャッチアップ・模倣される理由は新興国の人材養成バンクになっているから – 知識の倉庫の整理
- 他社からのキャッチアップや模倣を先発優位性と後発優位性から理解する – 知識の倉庫の整理
- 国内市場飽和による企業間競争の激化で価格競争に陥った場合、社員の日々の勤務にどう影響するのか? – 知識の倉庫の整理
- 企業の成長には権限委譲か?それとも権限集中か? – 知識の倉庫の整理
- 構造調整を進められない日本の企業からは脱出して、個人として自立した方がいいという考え方 – 知識の倉庫の整理
- 『異端者の時代―現代経営考』の青山商事の事例から考えるビジネスプロセスの再構築について – 知識の倉庫の整理
- 銀行の手数料と利息の問題点━小口決済市場の多様化で銀行業界は競争が激化している
コメント
M&Aは色んな力学が働いているので、本当に分析しにくい問題ですよね~。
でもいくつか現場で関わったことがありまして、そこで思うのは、経済合理性だけでなく、経営者のエゴや同業者・団体からのプレッシャーなど様々な要素が実は重要だったりするのかなと思ってます。
大義名分とでも言いましょうか。例えば、銀行の合併はほぼ金融庁主導でなされてたりとか。
いずれにしろ、興味の尽きないテーマです。
> ペペ (id:Pepe198x)さん
コメントありがとうございます。
確かに利益だけではなくて、社員の生活などを考慮して救済する目的で買収するということもあるかもしれませんよね。難しそうな問題です。