『下流老人』を読んで感じた3つの問題点のうちの収入について

昨今は中高年層と若年層で格差の拡大が問題視されています。中高年の世代人口が若年層の人口に比べて多いことから、選挙制度でも有利となっています。そういった問題点については以下の過去記事で触れました。

そのような状態を反映して、中高年に有利な法案が可決されたりしています。例えば2012年8月29日に改正高年齢者雇用安定法*1が制定されました。

 

この法案によって60歳などで定年を迎えた社員のうち、希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入を企業に義務付けるものとなっています。

 

この法案で問題視されているのは高齢者の雇用と引き換えに、若年層の雇用が削られる恐れがあるということです。実際そのような傾向はあらわれています。

 

近年そのような背景があり、中高年ばかりが得をして若年層が切り捨てられているイメージがあります。

 

自分もそのようなイメージを持っていたのですが、藤田孝典さんの書いた『下流老人』を最近読んでみて実際は違うようだということがわかってきました。

『下流老人』の概要

藤田孝典さん*2の書いた 朝日新聞出版の『下流老人』という本は、簡単に言うと現在の日本の高齢者の貧困問題について書かれた本です。

 

本書で書かれている下流老人とは「生活保護基準相当で暮らす高齢者、およびその恐れがある高齢者」されています。

日本の65歳以上の高齢者の人口は3384万人、総人口に占める割合は26.7%

総務省の統計によると、日本の65歳以上の高齢者の人口は3384万人(平成27年9月15日現在推計) で、総人口に占める割合は26.7%となっています。

 

その中で現在すでに約600万人が一人暮らし(うち半数は生活保護レベル)をしているとのことですが、これは対岸の火事ではありません。

 

この条件に当てはまらない高齢者であっても、若者であっても誰でも貧困状態になる可能性を本書では指摘しています。

 

では、なぜ現在の高齢者は本書で書かれているように貧困に陥ってしまうのか。自分が特に問題だと感じたところをピックアップしてみます。

貧困に陥る大きな原因となる3つの「ない」

本書で書かれている下流老人の具体的な指標として3つの「ない」について書かれています。その3つとは

  1. 収入が著しく少「ない」
  2. 十分な貯蓄が「ない」
  3. 頼れる人間がい「ない」

となっています。

 

昨今の高齢者は、年功序列の企業に長年勤めてきて、収入もあり貯蓄もあるというイメージがあります。それに加えて十分な年金ももらえるというのに、むしろどうして貧困に陥るのかと考えがちです。

 

しかし、現実問題としてはそうではないようです。

 

1、収入が著しく少「ない」

『1、収入が著しく少「ない」』の問題点として、年金収入が少ないことと、体力的になかなか働けない、もしくは働き口がないという問題があります。

「こんなに年金が少ないとは思わなかった。」━加藤さんの事例

例えば年金収入については本書に以下のような文章があります。

p.51 「こんなに年金が少ないとは思わなかった」

年金をかけていない時期もあったため、仕事をやめた後の月収は、厚生年金がわずかに9万円ほどであった。

 

両親の介護離職による年金加入年数の少なさ、低賃金などから、支給される年金は少なかった。これについて加藤さんは

 

「驚いたよ。まさかとは思っていたけど、こんなに年金が少ないとは思わなかった。どうやって暮らせばいいんだろうね。でも友人や知り合いに聞いたら、同じくらいの年金しかもらっていないヤツ結構いるんだよね。

 

みんな貯金を切り崩したり、働いたり、息子に頼って暮らしているよ。俺にはそういう身内がいないからな」と言う。

国民年金が5万4414円、厚生年金が14万4886円。合計は19万9300円

気になる年金受給額。平均いくらもらえる? [年金] All About

年金収入については上記のような記事もあります。このサイトで書かれている平均的な受給額というのは国民年金が5万4414円、厚生年金が14万4886円となっています。合計は19万9300円となります。この数値の問題点はあくまで「平均」です。

 

『下流老人』から引用した加藤さんの件は約9万円ほどとあります。その周りの方も同じくらいの金額とのこと

 

「平均」的な金額はある程度高くても、加藤さんの件のように親の介護のため離職していて保険料を払えていなかったとか、何らかの事情により少ない受給額に甘んじている人も多いと思われます。

 

上記に書いた年金収入以外にも労働収入についての問題もあります。

 

ITリテラシーの低い中高年層へ襲う問題

壊れたパソコンと、スマートフォン、タブレット

昨今の日本の社会を「高度情報化社会」と言ったりもしますが、中高年層のITリテラシーはあまり高くないとのことで、加えて年齢や体力の問題もあり、企業側は雇用を敬遠しがちになっています。(そういった問題から改正高年齢者雇用安定法の制定があると思われます。)

 

ITリテラシーの問題から、例えばインターネット上での就職サイトを利用できなかったりして、その時点で選択肢が狭められてしまいます。

ブラック企業が多いハローワークと「青少年雇用促進法案」

ハローワークを利用するにしても、最近はブラック企業が多すぎて下記のようなことも進んでいるようです。

参議院厚生労働委員会は、4月16日に悪質なブラック企業の新卒採用募集をハローワークが拒否できる「青少年雇用促進法案」を全会一致で可決しました。17日の参議院本会議での可決後、衆院の審議を経て、今国会で成立する見通しが高くなります。

 

現在の法令では、ハローワークへ企業側から求人申し込みがあった場合、原則としてハローワークは求人を断ることができません。

 

しかし、現在審議されている青少年雇用促進法が成立した場合、16年3月からハローワークが新卒求人について、違法行為が確認されたブラック企業について、求人の申し込みを拒否できるとしています。

 

確かに現在社会的な問題としてブラック企業の多さは指摘されています。そのブラック企業を締め出すというのは選択肢のひとつだとは思います。

 

しかし、ただでさえ様々な制限から労働収入も限定されているうえに、さらに制限をかけていったらどうなってしまうのでしょうか。

 

こういったことから「収入の少なさ」が問題視されているわけです。これは中高年層だけではなく、今後の若年層の迎える問題であるとも言えます。

今後の考えられる対策

高齢者層への対策は様々な選択肢が考えられますが、世代人口の多さを利用して政府を動かし、以下の過去記事に書いたように雇用を創出してもらうという方法はあると思います。

今後、時間が経っていけば必ず高齢者になっていく若年層に対しては、年金収入や労働収入に頼らなくても生きていけるように、今からでも新たな働き方や収入を考えておくべきではないでしょうか。

社会保障給付費も増加の一途━100兆円を超える

以下の過去記事では高齢者の増加に伴って、社会保障給付費も増加の一途を辿っていますが、とても追いついていない状況です。

社会保障給付費は100兆円を越えており、その財源を補うために徴収されている社会保険料は60兆円ほどで、他は国税や地方税といった形で補填されており明らかに足りない状況が続いています。

 

2000年の制度の改正によって年金支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられて、2004年には受給額2割カットと保険料が3割上がりました。

 

現在は上記の引用したような状況にあるので、年金収入だけでなく別の選択肢も考えておくのも遅くはないと思われます。

 

『十分な貯蓄が「ない」』と『頼れる人間がい「ない」』については次回書いていきます。

今回の記事の用語の意味

*1:改正高年齢者雇用安定法:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律は1971年(昭和46年)に制定された。通称高年齢者雇用安定法と呼ばれる。この法律は雇用対策法とも連動し、高年齢者の安定した雇用の確保再就職の促進、特に40歳代以上の応募や採用の差別を原則禁止して、雇用機会の平等化を促す目的がある。2012年8月29日、60歳などで定年を迎えた社員のうち、希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入を企業に義務付ける改正高年齢者雇用安定法が成立。2013年4月から施行されるようになった。

*2:藤田孝典:1982年生まれ、NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表、ブラック企業対策プロジェクト共同代表、厚生労働省社会保障審議会特別部会委員などを務める。『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』以外にも『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』『ひとりも殺させない: それでも生活保護を否定しますか』という本を書いている。

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