「あぁ・・・、そうだよね、優秀な所はやっぱりやってるよね・・・。」というのが最初読んだ時の感想でした。
最近はエリック・ブリニョルフソンとアンドリュー・マカフィーの『機械との競争 』を読んでいました。
この本は今後の技術の進歩において、技術の進歩がいかに早くなっているか、人間が段々とついていけなくなっているのではないかという面で以前から話題にはなっていました。
そういったことが現在進行形で起きている世界について非常に興味があった自分は、時間ができたら是非読んでみたいと思って、今が良い機会だということで今回購入しました。
本書の中で印象深い部分があったので今回はそのことで思ったことを書いていってみます。
ビジネスプロセスの複製という考え方
p.87
2008年にハーバード・ビジネス・レビュー誌に発表した論文で私達も指摘したが、デジタル技術によって複製が可能になったのは、情報財だけではない。ビジネスプロセスの複製も可能になっている。
たとえば、大手薬局・コンビニエンスストア・チェーンのCVSでは、処方薬の発注プロセスを会社全体の情報システムに組み込んでいる。本社でシステムを改善するたびに、それが全国4,000の店舗に瞬時に広がるので、同社の価値はますます高まるというわけだ。
(中略)
そのためだろう。CEOの報酬と平均的社員の報酬を比べると、1990年には70倍だったのが、2005年には300倍に跳ね上がっている
なるほど、知識集約産業の利点は引用した文章にあるように、複製のメリットの多くを享受できるのは情報財だけといったイメージしかありませんでしたが、「ビジネスプロセス」も可能だとは頭にありませんでした。
言われてみると、確かにそのメリットは計り知れないものがあるなと感じます。確かこのやり方や概念は以前に『私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ』で見たことがありました。
ウォルマートはアメリカ最大の小売業であり、なおかつ小売業でありがながら世界で一番の売上高を誇っている企業でもあります。
創業者のサム・ウォルトンは『私のウォルマート商法 すべて小さく考えよ』において、他社の店舗でおもしろい売り方をしている所があったら、すぐに自社に取り入れていたエピソードがあります。
それだけにとどまらず、そのやり方を全店舗で共有するやり方をとっていたという記述もあり、なるほど「ビジネスプロセスの複製」の生み出す効果とはこれほどのものかと考えさせられる本だと感じました。
日本の企業で働く人は属人化したがる
インターネット上で「属人化」という言葉について調べると以下のように書かれています。
企業などにおいて、ある業務を特定の人が担当し、その人にしかやり方が分からない状態になることを意味する表現。
多くの場合批判的に用いられ、誰にでも分かるように、マニュアルの作成などにより「標準化」するべきだとされることが多い。企画・開発業務など、属人化されているのが一般的と言われる業務もある。
自分は以下の過去記事のように複数の会社で働いてきました。
そこで感じたのは、いろいろな情報が「属人化」されているということです。引用した文章にあるように、多くの業務が特定の人にしかできないようになっているのです。
今まで働いてきた企業では基本的にマニュアルというものはなく、あったとしてもあまり充実したものではなく、わかりづらかったり、更新されておらずかなり古くなっていたりと実用に乏しいものでした。
ですから基本的に全て一から教えてもらわないといけないわけです。そこから思うことは、上の人間が「情報共有の利点」とか「学習」とか「改善」の概念が希薄なのかもしれません。
このブログでは以下のような過去記事を書いてきました。
動物と比べて人間の生物学的に優れている所は「途中から始められる」という点です。もう少し詳しい部分を過去記事から引用してみます。
ヒトはある者が新しい知識・知恵・工夫やノウハウ・技能を獲得したり、発明が行われた場合に、それを経験したことがない者に対しても言語コミュニケーションによってその内容を伝え、他の動物のように初めからやり直すことなく、次の段階から出発することができるのです
例えば、生物学的に比較的人間に近いと言われるチンパンジーとかサルでさえ、互いに何らかの形で、例えば言葉とか鳴き声、ジェスチャーなどで自分の経験を共有することができないのです。
それに対して人間は「言葉」を利用したコミュニケーションでその人が得た経験や知識を他の人間と共有することができるのです。そしてそれは「継承」できるわけであり、一から始めなくても良いのです。
この言語機能による知恵や技術などにおける後天的学習情報の社会的蓄積・共有・継承システムは、生物史上空前と言えるほど強力な生殺与奪権を持つことにつながり、人間を食物連鎖の頂点に立たせている理由のひとつでもあります。
多くの企業というのは、このメリットを生かしていないと言わざるをえません。今の時代のようにコンピュータという最先端の機器を通して、以前に比べて格段に情報共有がしやすくなったにも関わらず、まだ業務のマニュアルすらまともに作れている所は非常に少ないわけです。
例えばとある部署に新しく入ってきた人がいます。その人に対して口頭で一から教えるよりもちゃんとしたマニュアルがつくってあれば教える時間を極力減らすことができます。
教える側にとっても、躓いたらどこが分からないのかを把握することも容易です。もちろんそれだけで全ての業務がスムーズに進められるとは限らないので、わからない部分は聞けばいいと思います。
そしてマニュアルをつくる利点は自分の考えではもうひとつあると思っています。
マニュアルから業務を分析、改善していく
今の社会では「生産性」という言葉が叫ばれるようになってきました。要は今までの根性論的な長時間労働では外国の企業に対抗できなくなっていくだろうから仕事のやり方を改めましょう、ということです。
そもそもの考え方なのですが、業務プロセスを改善するにはどんな業務があるのかというのを把握していないといけません。ここで標準的マニュアルができていればいいのですが、少なくとも自分が見てきた企業でちゃんとしたマニュアルを整備していた所はありませんでした。
ですから業務プロセスを改善するにも「一から始めないといけない」わけです。多くの企業はもうここで躓きますね。
なぜ属人化してしまうかというと、自分の考えでは日本の悪しき慣習があると思っています。はっきり言ってしまえば「自分だけがこのやり方を知っていれば自分の地位は安泰だ」といった考え方です。
世の中には合成の誤謬という言葉があります。ミクロの視点、つまり目先のことでは正しいことでも、それがマクロの視点、つまりより俯瞰的な視点では、必ずしも意図しない結果が生じることを指す経済学の用語です。
「合成の誤謬」の事例については「共同食卓の悲劇」という形で以下の過去記事で書きました。えぇ、悲惨な末路を辿ることになります。
自分の地位を守るために業務を属人化しても、それは長期的にはあまり意味がないわけです。
なぜなら世界にある企業は1社だけではなく、日本だけで300万社あると言われていますし、世界に目を向ければ何千、何億という会社があるでしょう。
それにも関わらず、目先の利益のために自分だけしかわからないようにしても、その人にとって都合の悪い人を排除しても意味がないわけです。
その会社でその人しか良いやり方を知らなくても、世界のどこかで別の会社、別の誰かがいずれもっと良いやり方を生み出していき、気づかないうちに価格競争させられることなります。
価格競争の影響が社員ひとりひとり出てきて、まさに今の日本がブラック企業などの問題で長時間労働が常態化しています。早く属人化から脱却した方がいいでしょう。
話を戻しますが、業務プロセスやビジネスプロセスを改善するためには、まず業務内容やビジネスプロセスを把握することです。
というのも世の中には『(はじめの1冊!) オフィスの業務改善がすぐできる本 』といった本があり、最初この本を読んだ時は、業務の改善プロセスにはこんな良い方法がたくさんあるんだ、と思わされました。
業務プロセスの詳しい改善方法については、機会があったらまた別の記事で書いていきますが、体系的に業務プロセスを改善しようと考えている方にとっては非常に多くのことを学べると感じます。
マニュアルを整備したり、業務を誰にでも分かる形で記録しておくことは、業務のどこが効率が悪いのかという「分析」を容易にし、そこから効率が良いものに「改善」しやすくなるわけです。
コンピュータを生かす企業と生かせない企業とで二極化していく
以下の過去記事ではコンピュータは指数関数的に成長していくといったことを書きました。
世界では、特に今回『機械との競争』での中から引用した文章のように、日々成長するコンピュータを利用して、ビジネスプロセスを日々改善し、さらにそれを全社で共有している企業が存在しているわけです。
一方で日本の企業のように、業務を属人化させてしまう人が自分の経験上かなりの割合の数の会社に存在していると感じます。
これで二極化しないわけがないです。
これは個人にも言えることだと考えています。人間と動物の違いでも述べたように、日々情報共有してやり方を改善していかないと生活するのが苦しくなっていくのではないでしょうか。
というか、インターネット上で「平均年収」で検索すると右肩下がりの表が出てくるように、実際の多くの人が苦しい状況になってきていると思います。
ですから、今の時代の技術の進歩についていろいろと理解していく必要があるのではないでしょうか。
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