今回は以下の過去記事の続きです。
前回はデル株式会社がどうやってできたのかという、多くの人にとってパソコンで馴染みがある企業について書きました。
今回はそのデル株式会社がどうやって成長してきたのかについて『デルの革命 – 「ダイレクト」戦略で産業を変える』を元にまとめていきます。
※本書は1999年に出版されたものであり、今回書いた内容は、デル株式会社の創立から1990年後半ぐらいまでのものです。
ダイレクト・モデルのメリット
顧客の欲しいものを安く早く
p.39
私たちは見込み客やすでにわが社の製品を買ってくれた顧客とのコミュニケーションを絶やさなかったから、みんなが何を望み何に喜ぶのか、どこを改善できるのかを正確に把握していた。
みんなが何を欲しがるのか勝手に推測してビジネスをやるのではなく、「本当に」欲しがっているものに基づいてビジネスを構築するほうが理に適っている━私はいつもそう思っていた。
デルは当時としては異例の顧客と直接取引するというやり方をとっていました。このビジネスモデルの方法は様々なメリットがあり、上記の引用文にもあるように創立当初からの急激な成長の土台となるものでした。
顧客からの要望をリアルタイムで聞くことができ、その情報を製品開発に生かすことで迅速・廉価にパソコンを顧客に販売することが出来ました。
他社の場合だと小売店や卸へ販売するので、スピードの面で問題があり、また顧客と直接取引するわけではないので、「どういった機能が欲しいのか」「どういった問題があるのか」という顧客の声を聞くことができません。
そのため、他社は製品志向で独善的となり、小売店や卸を介するのでマージンを取られて価格も高くせざるを得なくなります。それらの点から自然とデルの販売するパソコンへ人が流れていったというわけです。
在庫を少なくして、現金を多く保持して再投資へ
他にも顧客と直接取引できるようになることは、在庫の面でもメリットがあります。
p.40
他社は、顧客が求めているものをあてずっぽうに「推測」するしかなかった。注文を受ける前にあらかじめ製品を作っていたからだ。私たちは顧客の要望を正確に「知って」いた。
(中略)
また、他社は卸売業者や小売チャネルに製品を供給するために大量の在庫を維持しておかねばならなかった。しかし私たちは、顧客が望むものを顧客が望むときに製造するだけだったから、場所も資本も必要とする大量の在庫を抱える必要がなかった。・・・
このようにデルは顧客から直接要望を聞けるということと、注文された製品だけをつくる受注生産方式を採用していました。
このため正確な需要を予測することができ、さらにそれによって効率的な受注生産が可能となります。その結果少ない在庫で済み、在庫を維持するためのコストもそれほどかからず、ある程度の現金を保持しながら経営できるわけです。
この保持できる現金を、さらに性能の良い製品開発のために投資したり、顧客サポートを充実させるために使ったりと、良い循環がデルを急速に成長させていきました。
ダイレクト・モデルの問題点
顧客の抱く不安感
ダイレクト・モデルの問題点はいくつかありますが、その中のひとつは、顧客が店頭などで直接見たり触れたりできないため、不安感を抱くことです。
そのような顧客の不安感の解消に、デルは「30日間返金保証」というサービスで対応しようとしました。当時としては、このやり方は先進的な方法であり、現在の充実した顧客サポートに繋がっています。
製品志向と顧客志向
技術者が開発しようとする製品は、技術者にとってはさらに高性能でさらに多機能にしようとする傾向があるようです。そういった意識について、以下のようなエピソードがありました。
1989年にデルは「オリンピック」という製品を開発しました。当時としては過剰な性能だったようで、デルの側はものすごい発明をしたと思っていたようですが、顧客からの評判はあまり良くなかったようです。
要は顧客は高性能なパソコンを必ずしも望んでいるわけではないということです。この時のことをマイケル・デルは次のように悔やんでいます。
p.62
意図や目的はどうであれ、顧客のためのテクノロジーではなく、テクノロジーのためのテクノロジーでしかない製品を作ってしまったのだ。
顧客志向ではなく、製品志向になってしまっていたわけです。ダイレクト・モデルという顧客から直接要望を聞くことができるビジネスモデルなのに、誤って「いかに高性能なマシンをつくるか」に焦点をあてて、
「顧客にとって、どう使いやすいか」は考えていなかったということです。
足場を固める━急成長に伴い、社内をどう整備するか
デルは1990年から1992年頃にかけて年100%前後の成長をして、売上高も20億ドルに迫ろうかという勢いがありました。この時の問題点は社員が会社の成長についていけなかったり、
会社のシステムが対応できなくなったりと、要は非効率だったということです。この時に今までの「成長・成長・成長」という方針から「流動性・収益性・成長」に方針が変わります。
明確な基準や測定手法、新しい報酬システムの整備など、それまでの人の勘に頼っていたやり方から、明確なルールやデータを利用したシステムに会社を変えていきました。そのようにしていかないと、その規模を維持できなかったというわけです。
WWW.DELL.COMの立ち上げ
1989年頃に、今のインターネットの礎となる、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)というシステムが、当時のCERN(欧州原子核研究機関)のティム・バーナーズ・リーによってつくられました。
WWWによってデルのビジネスがさらに加速していきます。デルはこのWWWの価値の素晴らしさに気づき、WWW.DELL.COMを立ち上げて、インターネット上で顧客とやり取りできるようにします。
デルにとってWWWは非常に役立つもので、1対1の顧客交渉をそれまでよりもさらに低コストで実現できるようになりました。画面上でのオンラインの見積りシステムによって、より迅速・廉価に商品を顧客に提供できるようになったのです。
ここまでの考察
企業の「あるべき姿」とはどんなものか?という点を意識してここまで読んできました。『デルの革命 – 「ダイレクト」戦略で産業を変える』を読んだ後、ハワード・シュルツの『スターバックス成功物語』という本も読んでみました。
『スターバックス成功物語』というのは題名通りスターバックスがどうやって今の状態まで成長できたのかについて書かれた本です。スターバックスというと、世界規模で展開するコーヒーのチェーン店であり、多くの人にとって馴染みがあると思います。
具体的な企業の成長とか内部についての本はそれ程読んだ経験はないのですが、この2社には成長の過程でいろいろと共通点があるかなと感じました。それが以下の項目です。
- 「顧客と直接接することと、顧客からの要望を積極的に経営に反映させていた」
- 「成長に伴う組織再編」
自分が気づいたのはこの2点です。まだ他にも注目すべき所があるかもしれませんが、ここまで急成長してきたデルとスターバックスはこの部分かなと。
診断士2次試験でも、「顧客と直接接する」ことは多くの所で好ましく書かれています。組織の変革や、会社の成長に伴い従業員の成長のためにどういった人事施策を取るべきかという点に対しても、試験の内容や本書でも共通する部分が見られました。
「試験でああいう風に書かれていたのは、企業では実際にこういうことが起きているからあのような問題が出されるんだな」といった感じで、自分の中でちょっとずつ点と点が繋がりながら読むことが出来ました。
とりあえず今の時点で、自分が考えたことや気づいたことは以上です。
1998年ぐらいまでのおおまかな成長についてここまで書いてきましたが、これまでの成長についてより深く掘り下げた内容についてはまた次回に書いていたいと思います。
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