企業の「あるべき姿」の設定と、それに伴う問題への対処法について

前回は以下の過去記事で「あるべき姿」の重要性について書きました。

あるべき姿が設定できないと、真の解決すべき問題を見つけること難しいようです。

 

ではあるべき姿とはどう設定していけばいいのか、ということについて、『問題発見プロフェッショナル―「構想力と分析力」』に書かれていることを今回書いていってみます。

「あるべき姿」とは経営理念やビジョン、個人の「想い」も重要

一般的に企業においてあるべき姿というと、

  • 「売上を上げるためにもっと営業を強化する必要がある」
  • 「この製品の技術力じゃあ競合にはもう勝てないから、この事業は切り捨てよう」

と言われるような客観性、論理性が必要とされる場面などのイメージがないでしょうか。

 

そうではなく、前回紹介した『問題発見プロフェッショナル―「構想力と分析力」』には経営理念やビジョン、個人の「想い」といった人間の「主観」「感性」も重要であると書かれています。

 

しかし、現在日本にいる多くの人について以下のように書かれています。

p.66

しかし、だんだん大人になるにつれて、現実の自分を脇へ置いて、純粋に「何になりたいか」「何をやりたいか」を考えることが難しくなってくる。

 

「あるべき姿」を考える前に、自分ができることをベースに考えてしまったり目指しても無理なことを自然に排除してしまう心のメカニズムができあがっていることが多い。

 

そしていつのまにか、「何になりたいか」「何をやりたいか」ではなく、「どこの会社に入りたい」「どこどこの会社なら入れる」「こういう仕事なら自分でもやれる」といった現実から離れない解決策思考になっている。

 

上記は個人に関して書かれていますが、企業においても同じことが言えるかもしれません。

 

例えば「株主」に対してより多く出資してもらうために社員を犠牲にして売上をあげるとか、

 

銀行から継続的に借り入れをできるようにするために、もしくは中高年世代の収入や生活のため積極的な投資をせずに、顧客や社員が求めているものは無視して無難な経営をするとか、内部留保を貯め続けるとか、

 

自分は経営の現場で仕事をしたことがないので何とも言えませんが、そのような視点も有り得るかと思います。

 

今までは経営理念やビジョン、個人の想いというものに対してそれほど重要性を感じておらず、どの企業にも設定する「お題目」ぐらいの認識しかありませんでした。

 

実際にその通りには行動するのは難しいけど、とりあえずつくっておこうみたいなイメージでした。

 

しかし本書を読むことで、今までの自分の価値観が180度変わった感じがします。

 

確かに、多くの人はいろんなしがらみに囚われたり、自分の能力を制限してしまったりと、日々の生活のために無意識のうちに「こう在りたい」という想いが少しずつなくなってしまっているかもしれません。

 

「これがやりたい」「こう在りたい」という想いが創れない、見つけられないために、そのために必要な課題が見えてこない。いや、本当は見えているのかもしれません。

 

ただそういった意識で行動したら日々の生活ができないとか、他の人から批判されるとか、株主、銀行、他の企業と取引ができなくなる、といったことも考えてしまうでしょう。

 

なかなか難しい問題だと思います。

 

戦略的問題発見に必要な4つのP

本書において、真の問題を発見するための「あるべき姿」を描くために以下のような構想力・発想力のスキルが必要と書かれています。

p.69

1、Purpose (目的軸)

2、Position (立場軸)

3、Perspective (空間軸)

4、Period (時間軸)

 

各項目ごとにそれぞれ簡単に説明していきます。

  • Purpose (目的軸)

目的軸は「そもそも何のために?」それが必要なのか、と問うことです。この記事の前半部分で「経営理念」や個人の「想い」について触れましたが、それがこの目的軸となります。

 

この「何のために?」という視点によって、物事を見る目線を自動的に上げられるようになります。「目的」とは、現在活動している製品やサービスなど具現化されているあらゆるものの上位概念です。

 

目線をより高い位置に置けることで視界が広がり全体を認識できるようになる効果があります。

  • Position (立場軸)

同じ企業にいても、人によってそれぞれ問題のとらえかたが違ってきます。その理由は、部長や課長といった立場の違いがあるからです。根本的な問題をとらえられるようにするには、まずこの立場を離れてゼロベースで複数の視点で考える必要があります。

  • Perspective (空間軸)

分かりやすく言うと、どういった「事業領域」で勝負するのか、ということです。本書では「パースペクティブを拡げる」と書かれていますが、これは「思考の空間を広く取る」という意味です。

 

もう少し別の言葉で表現すると、枠組み自体を固定して考えずに、抽象度を上げたり、視点を上げたりして、物事を柔軟にとらえるということです。

  • Period (時間軸)

これはいろいろな捉え方があると思います。例えば2年先、3年先を考えて意思決定をしたり、サプライチェーン上のどの時点に在庫を置くかを決めたり、どの時点で顧客に商品を届けるかを考えたり、などですね。

 

とある企業の事例を当てはめてみる

これらの指標に、パソコンや通信機器などを販売する、とある企業の簡単な事例をあてはめて説明していってみます。

  • 目的軸(その「あるべき姿」は何のためにあるのか?)

顧客に対して、それぞれの顧客のニーズに合ったカスタマイズされた商品を安価に販売して顧客満足度を高める

  • 立場軸(その「あるべき姿」は誰のためにあるのか?)

会社の売上や契約を多く取るためではなく、顧客のため

  • 空間軸(その「あるべき姿」はどの部分に必要なのか?)

官公庁や大企業で働くような、元々リテラシーの高い人たちをターゲットとするのではなく、今後パソコンの普及によって理解も進んでいくと考えられる一般消費者をターゲットとする。その顧客の趣味思考や仕事など様々な用途の部分に注目する。

  • 時間軸(その「あるべき姿」はいつどの時点で必要なのか?)

家電量販店などで規格品を買う時点ではなく、顧客の要望やニーズによってカスタマイズされた商品を顧客の必要な時に届ける時点

 

上記の指標に順番にあてはめてみましたが、これらから「あるべき姿」の設定によって、今回の事例企業が実際にどうなったかを書いていってみます。

 

目的軸から、安価に販売する方法の中の1つに「直接販売」があります。中間業者を入れずに消費者に直接販売すれば、マージンをとられずにその分安く販売することができます。

 

直接販売によって顧客からどういった要望、ニーズがあるかを直接聞くことができるようになります。それに合わせて商品を顧客ごとにカスタマイズできたり、精密な需要予測を立てることが出来ます。

 

時間軸から、家電量販店へ在庫を置くのではなく、在庫を仕掛り品の状態にして注文があったら作るようにします。可能となった精密な需要予測とこのデカップリングポイント(サプライチェーン上のどこに在庫を置くか)を上流工程に上げるという方法によって、

 

自社の在庫を少なくできると伴に、それ程時間をかけることなく顧客にカスタマイズされた商品を届けることが出来ます。

 

この一連の流れによって、目的軸の「顧客に対して、それぞれの顧客のニーズに合ったカスタマイズされた商品を安価に販売して顧客満足度を高める」ことが可能となります。

 

以上大まかに説明してみました。必ずしもこのように上手くいくというわけではありませんが、何らかの課題を設定する場合は、これらの指標を使って「あるべき姿」を考えていくと、解決すべき課題やすべきことが出てくる、

 

そのことによって具体的にどういったビジネスモデルで、どういった所と取引をして、どういった商品を取り扱う必要があるのか、そういったものが少しずつ見えてくる、といったことが今回紹介した本には書かれています。

 

問題解決にはこういった視点もあるんだなと勉強になりました。

 

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