経理として7社働いてきて感じる必要な職業的な智恵とは

経理以外の職業も含めると、今働いている会社で8社目の経験となります。新卒で一番最初の会社に入る前は、まさか自分がこの年齢で8社も経験することになるなんて露ほども考えたことはありませんでした。

 

えぇ、本当に露ほども考えたことはありませんでした。大事なことなので思わず二回も書いてしまいました。

 

当時の自分は社会人になったら「会社を変えるのは良くないこと、仮に転職したとしても1社か2社だろう」と思っていました。

 

えぇ、理想と現実はかくも違うものであると身をもって理解しました。

 

「正社員は安定している、正社員になれれば将来安泰!」

 

そう思っていた時期が自分にもありました。他の人の感覚はわかりません。ですが、少なくとも自分の感覚では「安定」と感じたことはほとんどなかったです。

 

その理由はいろいろとあるのですが、幸か不幸かいろんな会社の経理業務を経験することで気づいたことがあります。

 

今回はその気づいたことについて書いていってみます。

「専門資格だけでは食えない時代がやってくる」という話について

雷雨の中、傘をさすビジネスマン

最近は税理士や弁護士の資格を取っただけでは食っていけないという話を聞いたりします。

 

自分から見たらその話題の真偽はともかくとして、そういった難関資格を取った人とというのは自分から見たら神様みたいな存在であり、そういった人が食っていけないというのはいったどういうことなのか疑問に思っているくらいです。

 

ですが日々のニュースを見たり、いくつかの資格関連の本を読むと必ずしも自分のイメージとは違うようです。

 

例えば税理士の場合、自分は経理という仕事を何年か経験してきたので、税理士関連の話はニュースや実際に人の話を聞いたりしてある程度は話題の真偽は把握しています。

 

例えば以下の国税庁のHPに平成27年度における税理士の登録者数が書かれています。

その人数は「平成27(2015)年度 75,643」となっています。

 

ちなみに、社会保険労務士とか司法書士、中小企業診断士などの登録者数は各資格者ごとに約2万人から4万人程の登録者数となっており、そういった人達の数と比較するといかに数が多いか、いかに飽和しているかがわかります。

 

特に自分が驚いたのが、税理士登録者のその年齢層です。以下のサイトにその年齢層がわかりやすく掲載されています。

日本税理士会連合会調べによる第5回税理士実態調査報告書では以下のようなデータがあるようです。

税理士の年齢層

年齢層     割 合
20歳代     1.1%
30歳代     10.4%
40歳代     15.6%
50歳代     19.3%
60歳代     18.4%
70歳代     29.1%
80歳代     5.4%

最初見たときは目を疑いました。

「は?税理士業界って未来がないのでは?」と思いました。

 

というのも、50歳以上で既に全体の70%を占めてしまっています。そして20代と30代とで約1割なのです。

 

税理士業界全体の数は他の士業の方と比べると明らかに多く、高齢者層の割合も高い、そして一番の問題が会計事務所や税理士の給与です。

 

経理として7社も経験すると、経験する会社の中に税理士の勉強をしていた人とか、会計事務所で何年か勤務経験がある人と一緒に仕事をする機会あったりするのです。

 

そういった人たちの話を聞くと、税理士の勉強は「諦めた」とか会計事務所の給料が「安い」とか「割に合わない」「とても生活できない」といった生々しい話を聞いたりします。

 

最初は疑問に思いました。自分みたいなレベルの低い経理マンにとっては、会計事務所で働けるような人はエリートみたいなイメージでしたし、税理士を目指して勉強して、仮に限界を感じ諦めた人でも「天才」だと思っていたからです。

 

しかし、そういった人たちから聞く税理士業界の話というのは必ずしも自分がイメージしていたものとは違っていたのです。

 

経済には需要と供給という関係があります。少ないものであれば価値が高まって高い値で段売れますし、逆に多すぎると価値が下がって安い値段じゃないと売れません。

 

そういった視点から見てみると、引用したデータを確認してもわかるように、確かに税理士業界は数が多すぎて、その年齢層も高いと言える状況です。

 

もう少しわかりやすく言えば、高齢者の税理士が顧問先を独占し、若い税理士にまで利益が回ってこない、という状況なのです。

 

しかもここ数十年の日本の会社の数は減少の一途をたどっており、顧問先の奪い合いが激化していってもいるのです。

 

別にこういった状況は税理士業界に限ったことではなく、別の士業の業界にも多かれ少なかれ同じようなことが言えます。

 

つまり税理士とか弁護士になれる知識を持っているだけでは、今後の世界をよりよく生きていくのは簡単ではないということです。

 

では今後何が必要となってくるのかというのが「職業的な智恵」なのではないかと思っています。

「職業的な智恵」について

以前の自分は経理としてよりよく働けるようになるためには「知識」が必要だと思っていました。

 

今もその考え方は大きくは変わっていないのですが、それ以外にも必要なことがあるということに気づくようになったということです。

 

現在の私達の歴史は、農業社会、工業社会、情報社会、知識社会という変遷を辿ってきています。

 

現在は情報社会と知識社会の過渡期と言われており、田坂広志さんの『これから何が起こるのか 』には、そういった社会の移り変わりの時期において「求められる人材」と「活躍する人材」について次のように書かれています。

p.238

そして、専門知識を身につけて、専門知識を手に入れることは、市場にその専門知識を持った人材へのニーズがあるかぎり、「求められる人材」になることはできます。

 

しかし、専門知識や専門資格を身につけただけでは、決して「活躍する人材」になることはできないのです。では「専門的な知識」でなければ、何が必要か。

 

「職業的な智恵」です。

(中略)

例えば、依頼人の混乱した話の中から要点を掴む力。すぐに的確な法的対応を考えつく力。素人にも分かりやすく専門的なことを説明する力。相手に安心感と信頼感を与える力。そうした「職業的な智恵」を身につけていたからです。

 

そして、この「職業的な智恵」は、「専門的な知識」とは、まったく違った能力であり、書物や学校では学ぶことができないもの、経験と人間からしか学ぶことができないものなのです。

つまりは、現場での日々変化する物事や人間に対して当意即妙に対応できる能力といったイメージでしょうか。

 

当時はこの部分の文章を読んでなんとなく理解したつもりでいました。しかし、経理として7社経験してきたからこそこの意味が分かってきました。

 

なるほど「経験と人間からしか学ぶことができないもの」ですか。確かに実際に何社も経験しないとわからないことはありました。

 

例えば以下の過去記事で書いたようなことがひとつの事例です。

上記のように経理としての職業的な智恵として、簿記の知識以外にも知っておくといろいろと捗ると感じたのは「業務を改善できるITの知識」です。

とある会社の今までとは違う業務方法

これは自分が経験してきた会社の中であった業務のやり方の一つなのですが、どの会社も毎月月末支払いのために各取引先ごとに、どれだけの金額を支払うのかといった表を作っていました。

 

この表なんですが、自分が経験してきた中でどの会社も「請求書」の数値から表をつくっていました。

 

どの銀行のどの支店でどの口座でどれだけの金額なのか、といった表です。

 

これは会社ごとに違ってくるかもしれませんが、請求書が来たらその都度弥生会計や勘定奉行に仕訳を入力していくのか、もしくはある程度まとまった数になったら一気に入力してしまうのか、会社ごとにやり方はあると思うのですが、どの会社も概ねこういったやり方をとっていました。

 

しかし1社だけはとあるシステムによって、この月末の支払表が簡単に作成できるようになっていました。詳しくはなかなか書けませんが、自分の中で「なるほど、こういったやり方もあるのか!」と非常に勉強になった会社でした。

 

そのシステムというのも、例えば会計ソフトをつくっているような専門の会社ではなくて、個人の知識でも十分つくれるものです。

 

個人の知識で十分つくれるといってもある程度は勉強が必要なのですが、会計ソフト以外にもあるソフトと別のソフトを連動させることができるようなシステムについて「こういったやり方もあるのか」と考えさせてくれるには十分なものでした。

今求められている職業的な智恵のひとつ

ひとつは「電子的に処理できるようにする」という方法です。

 

これは何かというと、自分が経理として働いてきたので、経理の業務内容から説明してみます。

 

通常、会社の中の業務というのは繋がっています。ですが、システムとして全て繋がっているわけではありません。

 

例えば先程「月末の支払表」について書きました。これは通常は紙ベースで会社に郵送されてきます。

 

それを元に会計ソフトとかエクセルの表に入力して、さらに三菱やみずほのインターネットバンキングの画面で入力していって、上司の承認をもらい、支払いをするという形になっています。

 

一見すると何でもないように見えますが、結構な手間ですし、毎月のある程度の定型化された仕事でもあります。

 

なぜ紙ベースで郵送されてくるかというと、法律上平成27年現在は会社の規模にかかわらず保存期間が7年間となっているからです。

 

実際は紙ベースでなければいけないというわけではなく、国税庁のHPでは帳簿書類等の保存期間及び保存方法において「電磁的記録による保存方法」という方法も認められています。

 

つまり紙ベースでなく、例えばPDFなどで取引先にメールに添付して送信しても問題ないわけです。今まで経理の仕事をしていて、実際にPDFで請求書を送ってくる会社はありました。

 

ITを利用した業務改善方法の中のひとつはここです。紙ベースではなく「電子的に処理する」というやり方です。

 

こういったやり方は支払手形を電子記録債権で処理するなど以下の過去記事でも書きました。

こういった単純な知識はもちろん知っておいて損はないのですが、もう一段上のレベルでは「自分でシステムをつくってしまう」という方法が考えられます。

経理担当者がマクロや関数、プログラミングによって業務を効率化する、という考え方

これが全てではないでしょうし、経理以外にも大きく当てはまるのではないかと考えているのが、「個々のソフトを連動させるプログラムやシステム」をつくることです。

 

「経理担当者にそこまで求めるのか」と言われるかもしれません。いや、別にここまでできなくても特に問題はありません。

 

ただ、自分が何社かの会社で経理として経験してきて感じたのは、「いかに業務を効率化できるか」といったことです。

 

例えば以下のような過去記事を書きました。

この記事では、別に自分がプログラミングをしたわけではないのですが、経理業務でプログラミングを利用した業務を効率化できるシステムをつくれたらおもしろいだろうな、といったことを書きました。

 

経理として働いてきた方であればわかると思うのですが、経理は日次や周次、月次、年次といった形で日々の仕事というのはある程度決まっています。

 

もちろんある程度恣意性があるので、今すぐ完全に全ての業務をシステム化するのは難しいでしょうが、自分が何社か働いてきて感じたのは基本はどの会社も業務内容は同じだということです。

 

例えば勘定奉行という会計ソフトは、ある勘定科目の元帳のデータをエクセルファイルでダウンロードできたりします。

 

このエクセルデータを何らかの表をつくるために加工したい場合、手入力という方法もありますが、それ以外にもエクセルには表にソートをかけたりフィルターをかけたりできる機能が備わっています。

 

これ以外にも「マクロ」や「VBA」という機能が備わっています。この機能を各業務ごとに利用できたら経理担当者は重宝されるだろうなぁと何社か経験してきて感じました。

 

さすがにここまでくると、ある程度のプログラミングの知識が必要です。自分も以前ちょっとだけVBAについての本を読んだことがあるのですが、挫折した経験があります。

 

経理業務で追跡レベルでのマクロは使った経験があるのである程度わかるのですが、あの機能を経理の各業務ごとに使うことができたらどんなに楽になるだろうかと思いました。

 

今まで何個も手で処理してきたことをボタン一つで一瞬でできてしまうわけですからこれは楽です。

 

もちろんただマクロやVBAの知識を知っているだけではダメで、経理の知識もあり、なおかつマクロやVBAを経理業務に合わせて柔軟に使える知識があれば非常に重宝されるでしょう。

理想は経理業務全体が完全にシステムで自動化された状態

例えば会計ソフトからエクセルデータをダウンロードして、自分が見たい形の売上レポートにしてくれるまでにボタン一つでできるようなシステムとか、

 

請求書の受け取りから、会計ソフトへの仕訳の入力、同時に銀行データの作成までをボタン一つでできるようなシステムとか、

 

外食産業の店舗で日々の過不足に絶対に間違いがなく、経理担当者の手を介さずに売上データが自動的に銀行や本部の会計ソフトに連動されるシステムとか、

 

とにかく人の手を介さずに間違いがなく処理できるシステムができてしまうことが理想です。

 

ですが、まだそこまで到達するには時間がかかりそうなので、現段階の経理担当者に必要とされる職業的な智恵のひとつは、業務内容に合わせて「個々のソフトを連動させるプログラムやシステム」ができることではないかなと今までの経験から思ったことです。

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