以前から今後の日本は人口がどんどん減っていき、それに伴い労働力も減っていくだろうと言われています。そうなると最近特に言われるようになったのが「人手不足」という問題です。
実際多くの企業で人手不足が叫ばれており、外食産業などでは営業時間の短縮が行われていますし、長時間労働も規制されるようになってきています。
そのことについて以前から考えていたことがありました。
「IT業界は本当に人手不足なのかな」と。
今回はこのことについて以前から考えていたことを書いていってみます。
帝国データバンクの情報から見る現在の状況
昨今の日本の人手不足具合について以下のようなデータが帝国データバンクから発表されています。
特別企画 : 人手不足に対する企業の動向調査(2017 年 1 月)企業の 43.9%で正社員不足、過去 10 年で最高~「大企業」、「個人消費関連業種」で深刻な人手不足~
確かに数値だけを見れば人手不足がどの業種でも顕著なのがわかります。以上の表を見るとわかるのは正社員と非正社員で分けられているところがポイントです。
正社員で人手不足が顕著な業界は以下の順番になっています。
- 放送
- 情報サービス
- メンテナンス・警備・検査
- 人材派遣・紹介
- 建設
- 家電・情報機器小売
- 運輸・倉庫
- 専門サービス
- 自動車・同部品小売
- 電気通信
そして非正社員で人手不足が顕著な業界は以下の順番です。
- 飲食店
- 娯楽サービス
- 飲食良品小売
- 繊維・繊維製品・服飾品小売
- 医薬品・日用雑貨品小売
- 旅館・ホテル
- メンテナンス・警備・検査
- 人材派遣・紹介
- 各種商品小売
- 家具類小売
今回の記事の本題である「情報サービス業」で正社員が足りないと感じている企業が6割以上と非常に高い値となっています。このITとか情報サービス業といった業種は以前から人手不足というニュースは頻繁に流れていました。
需要に供給が追い付いていないというのもありますし、インターネットでいろいろ調べてみればわかるようにプログラマーやシステムエンジニアはかなりの長時間労働で激務で仕事を辞めざるを得なかったという記事もよく見かけました。
自分の知り合いの方からも、実際にそういった経験してきたという話も聞いたりします。そういった様々な条件が重なって人手が不足しているのですが、自分の中ではこういったデータは果たして本当なのだろうか、と思うのです。
というのは、本当は人材はいるんだけど様々な条件から正社員という雇用形態を選択していない人が一定するいるのではないかなと自分は感じています。
例えば「割に合わない」といったことや「別に他の手段でも収入を得ることができる」といった理由から「本当は正社員になれるんだけど敢えて正社員になっていない」人が少なくない数いらっしゃるんじゃないかなと。
IT業界において正社員という雇用形態で低賃金で雇うのはもう難しいのではないか
なぜこういったことを思いついたかというと、自分はここまでいくつかの会社を経験すると同時に就職活動も何度もしてきました。
その時に気づいたのは「正社員じゃなくても、正社員以上に多くの収入を得られる求人」をたくさん見てきたからです。そのことについては以下の過去記事で触れています。
例えば派遣社員の求人でシステムエンジニアやプログラマーの時給が、2,500円とか3,000円といった求人は豊富にあります。
例えば時給3,000円で1日8時間、一ヶ月20日間働いたら3,000×8×20=480,000円になります。これだけでも十分すぎる数値なのですが、例えばこの時給で月300時間働いたらどうなるでしょうか。
160時間以後の数値は残業とみなして時給に×1.25をしたとします。すると
140×(3,000×1.25)=525,000円
正規の時間の分と残業の時間の分を足すと
480,000+525,000=1,005,000円になります。
正社員として働いていたら、おそらく月100万円を超えるというのはなかなかないのではないかと思います。というのも、サービス残業や給料に残業代込みといった会社は現実には少なくないからです。
インターネット上でIT業界の様子を調べてみると、労働条件に関して悪い意味で様々な出来事が起こっていることがわかります。
世間では「優秀な人ほど会社を辞めていってしまう」という言葉も聞いたりします。その背景には、優秀な人ほど仕事に困らないから、良い条件があればすぐにそちらの方に移れるというものです。
自分もいろいろな求人を見てきましたが、確かにそれはそうだなと思います。というのは、派遣社員の求人に限らず、ある一定期間のプロジェクトに関する求人で「この期間で数百万」といったものも存在するからです。
それ以外にもクラウドワークスやランサーズなどで、システム開発やデザインのプロジェクトの仕事などもあり、これは1つのプロジェクトで期間は数ヶ月、報酬は100万から300万円といった案件も見られます。1年間ではなく数ヶ月です。
正社員という働き方以外に、こういった案件の仕事があるのですから、優秀な人ほど正社員のメリットは低下してしまうのではないでしょうか。
特にITに関して優秀な人ほど様々な分野にアンテナが敏感だと思われます。ですから、そういった人ほどここまで書いたような求人や案件を知っている人というのは少なくないはずです。
となればIT業界では優秀な人ほど正社員に就かなくなる、つまり人手が不足してくると思われます。
優秀な人にとっては「短期間で数百万円の案件もある、なぜ理不尽な上司の下で何年も我慢して昇給を待たなければいけないのか」と考える人が出てきてもおかしくはありません。
今までの働き方の代替となるシステムは生まれている
たぶん多くの人は気づいてないと思われますが、「正社員じゃなくても生きていける環境」というのはできつつあると感じています。
というか、正社員という働き方以外の働き方を知らないと苦しくなるような時代に現在は進んでいっていると感じます。
インターネットという技術が生まれる前の時代は「正社員」という働き方が当たり前でした。むしろ男性で正社員として働いていない人は奇異の目で見られた時代もあったようです。
そもそもそういった時代は「正社員」という働き方しかまともな選択肢がなかったわけですから、結構な人が仕方なくそういった働き方を選んでいたというが現実なのではないでしょうか。
しかし時は経ち、働き方や雇用形態も多様化していきます。例えばパート・アルバイトは1990年以前からありましたが、現在の派遣社員という働き方も1986年の労働者派遣法施行から始まっています。
さらに現在ではIT業界などの先端的な業界では「テレワーク」といった会社に出社しなくても自宅で働ける働き方も生まれてきています。
ここまで書いてきたように「働き方」というのは多様化してきており、「正社員」という餌で釣ってサービス残業をさせて低賃金で働かせるという方法は難しくなっているわけです。
今までの歴史の事例
つまりどういことかというと、企業経営理論的にいうと「働き方」というものに「代替品」が生まれてきているということではないでしょうか。
歴史上こういったことはたくさんありました。例えば最近の事例では中国のレアアースが言えるのではないでしょうか。
レアアースの事例
レアアースについてはこのブログでは以下の過去記事を書いています。
以前中国は世界の約90%のレアアースを供給しており、そういった市場の寡占を背景に多額の利益を得ていました。その中で日本は、レアアースのほとんどを中国から輸入しているという状況でした。
しかし、平成22年9月7日に起きた尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖での中国漁船衝突事件によって、中国が日本への経済制裁として、このレアアースの輸出を禁止します。
本来であればレアアースを材料に様々な製品を製造していた日本の企業は困ってしまうはずでしたが、あまりにも高い輸入依存度から以前から代替品の研究は進んでいたようです。
この事件があった後すぐに代替品の開発に成功し、今ではレアアースの価格は暴落し、中国がレアアースで得ていた利益はほとんどなくなってしまいました。
中世ヨーロッパの農民
1000年程前のヨーロッパでも現在と同じようなことが起こりました。そのことについては以下の過去記事で触れています。
当時のヨーロッパでは領主が農民に対して過酷な賦役を課していたと言われています。その有様は奴隷のようであり、非常に劣悪な労働環境だったとのこと。
しかしある時、農民たちの社会的法的地位は劇的に向上しました。それはなぜでしょうか。
それは当時において開墾という新規ビジネスの立ち上げが創出した雇用が原因でした。ある領主が森を切り開き新たな畑を耕し始めます。しかし人手が足りないため、そこで働いてくれる農民を募集しました。
そしてそこで起こったのが労働の需給バランスの変化です。開墾という新規ビジネスの立ち上げによって、今までの過酷な労働を強いられていた農民は待遇が良い新たな農地へ移動してしまいます。
そこで困ったのは元の土地の領主です。農民に逃げられては生活ができなくなってしまうので、今までの待遇を改善しなければならくなりました。このことが農民の社会的地位の向上に繋がっていったというわけです。
ITの仕事は日本国内に制限されない
これは今現在の日本においても起こっていることですが、ITに関する業務で日本だけではなく海外でも働く人がいるということです。
ITとかプログラミングというのは多くの場面で英語が使われます。つまり働く職場は日本に限定されないということです。
インターネット上でIT業界で働いていた人のブログなどを見てみると、日本ではなく海外で働くようになったという人がいるということを知るようになりました。
日本で働いていた時は、デスマーチと言われるような何日も眠ることができない仕事でなおかつ安月給で働かなければいけなかったと、
しかしそのような職場に限界を感じて海外で働くようになってからは、その待遇の差に驚いたという話も目にします。海外では定時で帰ることができるのが当たり前で、収入も日本で働いていた時と比べても劇的に良くなったとのことです。
そういった話も少なくない数で見るようになりました。これは自分の中でも新たな視点の発見でした。なるほど、今までは日本で働く事が当たり前でそれに疑問を持つことが全くありませんでした。
しかしこういった事例を見るようになってからは、アメリカとかカナダとかドイツやフランスといった海外で働くという選択肢もあるのだなと思うようになりました。
まとめ
現在は働き方は多様化しており、優秀な人ほど正社員や日本という場所に縛られないということです。
これはIT業界に限ったことではないと思いますが、労働者側が「複数の選択肢」を持てるようになってきています。
昨今の日本の人口は減少しているから人手不足に繋がっているという部分もあると思うのですが、「別にそこじゃなくてもよい」という人も多くなっているのではないでしょうか。
多くの人は「正社員」以外には良い選択肢はないと考えている人が多いのではないかと思います。
様々な業界や政府からの広報やニュースでも正社員になった方が良いといった報道がなされます。しかしその選択肢は果たして良いものなのでしょうか。
もしかしたら経営側の人間にとって、労働者側の人間に「良い条件の選択肢はいくらでもある」といった知識を持たれたら、
「低賃金でサービス残業でこき使うことが出来ない」だから「正社員で働けないと将来生活できないかもしれないよ」、と恐怖を煽っているだけかもしれません。
なんにせよ、個人が複数の選択肢を持てるということは決して悪いことではないはずです。
ひとつの選択肢しか持っていなかったら、それが駄目になったときに非常に困ってしまいます。逆に複数の選択肢を持っていたら、ひとつが駄目になってもすぐに切り替えることができます。
自分が考えていたのは、ここまで書いてきたように労働者側が様々な選択肢を持てるようになってきたら、
特にIT業界に精通している人ほど「情報」という分野に関して知識があるわけですから、世の中には複数の選択肢があることを知っている人も多いと思うのです。ですから敢えて正社員では働いていない人もいるのではないでしょうか。
つまりは、本当は人数的にはそれほど不足していないけれども、経営者側が今の状況を理解できるようにならない限り、待遇を改善しない限りは人手不足感は解消されないのではないか、ということです。
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