最近は藤原和博さんの『味方をふやす技術』を読んでいたのですが、考えさせられる文章があったので、今回記事にしました。
10年前、まだ自分が社会人になる前の頃の社会人のイメージというのは、「大学を卒業したらみんながなるもの」という非常に漠然としたものでした。
もちろん会社の「正社員」にならない人も一部にはいるけれどもそれはほんの一部だろうといったイメージがありました。
しかしここまで社会人として経験を積んでいくうちに正社員というものに対する次のようなイメージが崩れていきます。
- 「正社員って本当に安定しているの?」
- 「正社員ってそれほどメリットがないのでは?」
- 「なぜみんなそれほど正社員になりたがるのだろうか」
等々自分の考えが時間が経つほどに変化していって、今では以下の過去記事も書いたように正社員というものに対する自分の価値観というのは、以前に比べれば大きく変わりました。
今回は正社員とか世間で安定していると言われているものに関して考えていたことを書いていってみます。
一般的な正社員の定義
正社員の一般的なイメージというと、どういったものを思い浮かべるでしょうか。例えば期間の定めがない契約で雇われている労働者といった感じでしょうか。他の雇用形態に比べれば安定しているイメージはあります。
実際は「正社員の定義」といった明確なものは現在の日本にはなく、労働者を便宜的に区分するために使われている用語に過ぎないようです。
厚生労働省発表の厚生労働省大臣官房統計情報部の主な用語の定義には次のように書かれています。
「常用労働者」
次の各号のいずれかに該当する労働者をいう。
- 期間を定めずに雇われている労働者
- 1か月を超える期間を定めて雇われている労働者
- 日々又は1か月以内の期間を定めて雇われている労働者のうち、4月及び5月にそれぞれ18日以上雇われた労働者
もう少し書くと、引用先の厚生労働省のサイトの図に書いてあるように、常用労働者の中の一般労働者の中の正社員・正職員に該当する者が正社員と言われるようです。
1995年の日経連の「長期蓄積能力活用型グループ」
このブログでは以下のような過去記事も書いています。
1995年に日経連から以下の表のように『「新時代の『日本的経営』」と3種類の労働者グループ』というものが出されています。
この3種類の労働者グループというのは
- 長期蓄積能力活用型グループ
- 高度専門能力活用型グループ
- 雇用柔軟型グループ
という形で区分されているのですが、正社員に該当するのが長期蓄積能力活用型グループです。
1995年の時点で政府は既に労働者を3種類のグループに分けて日本の経済を進めていくことを決めていたようです。
ここでの正社員と考えられる「長期蓄積能力活用型グループ」は、雇用期間の定めがなく、対象が管理職・総合職・技能部門の基幹職となっています。
他のグループに比べて退職金もあり、なんだかかなり特別扱いされているような感じですね。
正社員の定義の見直し
ここまで書いたように、「正社員」というのは他の雇用形態に比べてかなり優遇されているように見えますが、実際はどうなのでしょうか。
藤原和博さんの『味方をふやす技術』から考えさせられる文章とは以下のようなものです。
p.69
「正社員」=正しい社員とは、現在のところは会社の就業規則に則って正式に社員として契約した人たちのことだ。しかしあと5年以内に「正社員」の意味はは変化し、
マネジメントのプロとして社内に留まる人と、社外で通用する技がまだなくて社内に留まらざるを得ない人の総称になるだろう。その比率も著しく低くなる。
うん。今まで薄々感じてはいたのですが、こういったことは表立って言うのは憚られていました。ですが、やはり考えている人は考えているんだなぁと思いました。
藤原和博さんの『味方をふやす技術』の第一刷が発行されたのは2002年1月となっており、それから5年というと2007年です。現在は2017年ですから2002年からは既に15年も経っています。2002年以前から既にこういった見方をされていたんですね。
ですが、自分の感覚はちょっと違っていまして、このブログでは以下のような過去記事を書いています。
自分の感覚としてわかりやすく言ってしまえば、「正社員て割に合わないのではないか」と思っています。
日経連では「長期蓄積能力活用型グループ」とあるように、正社員に対して長期的に能力を蓄積していってもらって、会社のために活躍してもらおうという目的があるということですよね。
さらにその対象となるのは、管理職・総合職・技能部門の基幹職と書かれています。藤原和博さんの著書には、正社員というのは「マネジメントのプロとして社内に留まる人」と書かれています。
管理職とか総合職というと、その会社の正社員で課長や部長になっている人が思い浮かびます。一般的にこのような層の人たちというのは、管理職なので残業代がつかない人が多いです。
ですから、会社側も「1時間当たりに支払う給与」をなるべく上げたくないのでたくさん残業をさせます。残業代がつかない管理職の人たちになるべく多くの仕事をさせれば会社側にとっては人件費を抑えられます。
自分もここまで何社か働いてきましたが、課長とか部長といった層の人たちはどこの会社でもかなりの時間働いていました。つまりそういうことなのでしょう。
特に最近は残業が規制されるような世論となっています。この背景にはおそらく、世代人口が多いバブル世代や団塊ジュニア世代が日本の会社の要職を占めるようになってきたことがいくつかの理由のひとつであり、
また、要職に就いていないバブル世代や団塊ジュニア世代の仕事を残業代がつかない管理職の人たちに回したいというのもあるでしょう。
で、昨今の一部の会社しか潤っていない景気による他の企業の経営難に加えて、ただでさえ世代人口の多い人たちが会社の中枢を占めるようになっては人件費がばかにならないですし、
昨今の長時間労働は健康によくないということや、最悪の場合死を招くというのは、バブル世代や団塊ジュニア世代に支払う人件費抑制のための「大義名分」ではないかと思われます。
要はこれからの正社員というのは、どんどん「割を食わされる」のではないかということです。
ですからこのような環境下で
- 「長期蓄積能力活用型グループ」
- 「マネジメントのプロ」
に該当するような優秀な人が、そもそも正社員になりたがるのか、ということです。
このブログの過去記事にも書いたのですが、別に正社員じゃなくても
- 全然良い待遇
- 良い環境
- 良い給料
- 短時間
- 会社に縛られない
といった条件で働ける環境というのはできあがってきています。
そのため、これからは会社で正社員として働く、また、「正社員の定義」というのも見直されてくるのではないかと思うのです。
優れた人材は、かならず流出する
田坂広志さんの『これから何が起こるのか━我々の働き方を変える「75の変化」』には次のように書かれています。
p.261
それゆえ、多くの企業で、経営者や人事部長は、優れた人材の流出を最小限にするために、人材の評価や処遇に最大限の注意を払ってきたのです。
従って、もとより、こうした「人材流出防止」の努力は、永年、すべての企業にとって大切な課題であり、これからの知識社会においては、ますます大切になっていくのですが、実は、ここで申し上げたいのは、その逆のことです。
優れた人材は、かならず流出する
そのことを前提に、人材戦略を見つめておくべきなのです。
これからの時代には、企業がどれほど一生懸命に、優れた人材の「引きとめ」や「囲い込み」を考えても、それが優れた人材であればあるほど、自分自身のプロフェッショナルとしての成長を求め、新たな世界での自身の可能性を試したいと願い、転職をすることは、しばしば起こるのです。
うん、自分もそう思います。流出しますよね。だってその人にとって「そこじゃなくてもいい」わけですから。他に良い選択肢があるのに、何故理不尽な思いをして、低賃金で長時間労働に甘んじなければいけないのか。
長時間労働しても報われるのならいいですが、今後の日本の情勢を考えると、企業の正社員の管理職の方たちは、今後ますます「1時間あたりの給与」が下がっていきます。
これらのことを考えると、正社員というのは藤原和博さんの著書にあるように「社外で通用する技がまだなくて社内に留まらざるを得ない人の総称」だけの意味になっていってしまうかもしれません。
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