先日こんなことがありました。
Aさん「私、税務署で手伝いをしていた時があるんですよ。」
Aさんが他の人と話していた時に偶然自分の耳に入ってきた時のことです。前後の詳しいやり取りは忘れてしまったのですが、この言葉だけは脳裏に焼きついていました。
>「税務署で手伝いをしてたんですよ。」
他の人が聞いたら、特に何も感じないか、「すごいな」ぐらいの感覚しか持たないかもしれません。
ですが、この言葉に対して自分は「あぁ、なるほどな」と感じたのです。というのもその方は以前から「私は経理初心者なんですよ。」と言っていたからです。
今回はこのことについて感じたことを書いていってみます。
それだけの能力があるのに「初心者」というのはおかしい
自分は明らかに「おかしい」と以前から感じていました。というのも冒頭で述べたAさんという方は、今の職場に入って自分の直属の上司になる方なのですが、経理初心者としては明らかに「できる」方なのです。
経理を経験している方ならわかると思うのですが、表や数値をチェックする時に非常に注意されると思います。
機械が全てやってくれるのなら別ですが、人間の手が入ると何かしらのミスは出てくるもので、そういったミスに気づける必要があります。
そういったミスについて、自分も最初の頃はなかなか気づけませんでした。
例えば毎月の月末支払いの取引先ごとの銀行データをチェックする時に、「口座の種類」というものがあります。例えば「普通預金」とか「当座預金」といったものです。
ほとんどの取引先は普通預金なのですが、全体の中のほんの数社だけ「当座預金」となっていることがあるのです。この銀行データのチェックの時に自分は何度も気づくことができなくてよく上司から叱られたものでした。
今では自分の中で「間違いのデータベース」がかなり蓄積されてきたので、自分がどういった時にどういったミスをするのか、というのがかなり把握できるようになりました。
この自分なりの間違いのデータベースというのは、多くの人がその人なりのデータというか、感覚値といったものを持っていると思います。
そういったものが蓄積されてくると、ミスも少なくなってきますし、ミスをしないために次に何をすればいいかもわかってきます。
ですから、そういった視点が持てるようになると今回のAさんのように、経理初心者なのにこれだけのミスに気づけてこれだけ動けるというのは、「何かあるな」と気づけるわけです。実際は初心者ではなかったということです。
こういった感覚って経理だけではないのでしょうが重要だよな、と感じたので今回こういった場所で書かせていただきました。
経理実務における「外れ値」と「異常値」について
統計解析の世界には「外れ値」と「異常値」という言葉があるようです。ちなみに
- 外れ値:他の値から大きく外れた値
- 異常値:外れ値のうち、原因(測定ミス、記録ミスなど)がわかっているもの。
という意味になります。
今回ここまで書いたAさんの件についえは「外れ値」ということになります。ね。自分の今までの経験から考えるとAさんという方は初心者という枠からは外れており、明らかに「外れ値」でした。
経理を仕事にして働く人にとって、このような感覚は重要です。というのもこういった感覚がないと数値的には正しくても、違うということに気づけないからです。
「数値的に正しくて違う」とはいったどういうことなのか。会社の従業員が毎月もらう給料を例にして説明してみます。
自分もそうですし、多くの方が日々会社で働いています。その雇用形態は正社員や派遣社員、嘱託社員、パート・アルバイトなど様々です。
ですが、基本的に人が会社からもらう給料というのは、被雇用者である限りそれほど大きな違いはありません。
例えば大卒の初任給だと一ヶ月20万円前後ぐらいが相場でしょう。30歳になるとだいたい30万円前後ぐらいの給料になるかもしれませんし、部長になったら40万から60万とか、会社ごと職種ごと業種ごとに違いはあるかもしれません。
だいたい相場の数値というのは一定しているものです。
ですが、例えば被雇用者が毎月1億もらうというのは、普通は考えられません。そういう人も中にはいるでしょうが、給料の一ヶ月の相場から考えると、一ヶ月一億というのは、「外れ値」なわけです。
例えば毎月の社員に支払う給与の表があったとします。全社員に支払う給与が毎月1億ぐらいで推移していたとして、なぜかとある月だけ2億になっていたとします。その月が7・8月や11・12月などの賞与が出る月だったら「まぁあるかな」と思うかもしれません。
ですがそれ以外の月で、通常の月の2倍といった数値になっていたらおかしいわけです。その時は何か理由があるのかもしれませんが、とにかく何かしら気づく必要があります。
他にも数値の外れ値に対する感覚が持てていない状態で、1年分の給与の合計が電卓で計算してみて合っていたら、そのまま見過ごしてしまうかもしれません。こういったことを、自分の中では「数値的に正しいけど違う」と言っています。
当座預金、普通預金の違いといった単純な違いであればまだいいのですが、一定の相場から逸脱した数値、もしくは全体の数値としては合っているけど、個々に見ていくと実は違うみたいな事例に気づけるかどうかというのは結構難しいわけです。
定量的と定性的という言葉の意味について
世の中には「定量的」という言葉と「定性的」という言葉があります。その意味は簡単に書くと、以下のようになります。
- 定量的は「数値で表せるもの」
- 定性的は「数値で表せないもの」
ではこの言葉が今回の話の内容とどう関係するのか。
冒頭部分で述べたAさんはAさん自身のことを「経理初心者」と言っていたけれども、実は税務署で働いていた経験があり、実際は初心者のレベルではなかったのが「定性的な外れ値」
その次に書いた給料の数値の話が、「定量的な外れ値」ということです。
今まで経理の仕事を経験してきて大事だなぁと感じたことは、「いつもと違う何か」に気づけるかどうか、それはなんとはなしの人の動きや周りの環境の変化、もうひとつは具体的な数値における外れ値や異常値です。
最近あった出来事から、今回のようなことを書いてみました。経理の仕事を今後考えている方がいらっしゃったら、以上のようなことを念頭に仕事をされるとミスを少なく出来るのではないかなと思います。
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コメント
私はITエンジニアですが、こっちの世界でもそれは同じですね。
開発時のデバッグやら、システム障害を対応する場合等
大量のログの中に、少しだけいつもと違うErrorやWarningやら、見慣れないIPアドレスとかURLなんかがあると(違和感を覚える感じですね)
すぐに、これは何か変だということを察知する感覚があると、いろいろと即時に調べこむことができるので
非常に役立ちます。
というか、それに気づけないことで
トラブル終息やバグ改修において、想定外に時間がかかってしまうこともあります。
俗にいう「ハマる」というやつです。
そういう感覚、嗅覚のようなものは
プログラマ・サーバエンジニア・ネットワークエンジニアなんかにも
大切なセンスだと思います。
なかなか形式知としてまとめられるものでもないので
それこそ、技術というより、技能・技芸といった感じですね。
>匿名さま
コメントありがとうございます。
こういった問題の解決って難しいですよね。
特に見るべきデータ量が多くなればなるほど定量的、定性的な外れ値に気づくというのは難しくなってきますし、こういった感覚って属人的になりやすいとも思っています。
ですから、完全に素人の考えではありますが、自分なりにこの問題の解決策を別の過去記事に書いたりしました。
それは、会計ソフトや日々使っているエクセルなどに過去のデータの蓄積を学習させて、外れ値やおかしな値があったら会計ソフトの方から警告を出させることができないものか、といったものです。