簿記1級となると簿記2級とは違い、新しい仕訳や勘定科目はもちろん、新しい概念も出てくるようになります。
今使っているテキストは滝澤ななみさんの『スッキリわかる日商簿記1級商業簿記・会計学 (1) 損益会計編 』です。
以前も書いたかもしれないのですが、簿記2級のテキストは商業簿記が1冊、工業簿記が1冊の計2冊です。
ですが、簿記1級になると商業簿記・会計学のテキストが4冊、工業簿記・原価計算のテキストが4冊の計8冊なります。
初めて簿記1級のテキストについて調べた時に、全部あわせると「8冊」あるという事実を知った時は「あ、もう無理だ」と全く戦いもせず白旗を挙げてしまいました。
しかし、これまでに中小企業診断士の試験で7冊のテキストを読んできたので、量に関しても難易度に関してもある程度は耐性があります。
今回は、8冊の中の一冊、商業簿記・会計学のテキストを一通り読んでみて、簿記2級との違いとか気づいたことを簡単に書いていってみようかと思います。
簿記2級と簿記1級のテキスト(損益会計編)との基本的な違い
とりあえず現時点で感じているのは、簿記2級の知識に+αした感じという感覚です。
冒頭部分で新しい仕訳や勘定科目、新しい概念が出てくるとは書いたのですが、もちろんそういった部分もありましたが、手も足も出ないという感じではありませんでした。
値引きとか割引・割戻しの仕訳とか計算は簿記2級の範囲だったのですが、簿記1級になると、「仕入高から控除するのかしないのか」「売上高から控除するのかしないのか」といった付随的な新しいルールが出てきたりします。
こういった部分が簿記2級とは違った部分かなと感じています。
会計学の基礎知識という項目

『スッキリわかる日商簿記1級商業簿記・会計学 (1) 損益会計編 』の中には「会計学の基礎知識」という項目があります。
他の章では、基本的に例題と簡単な仕訳を説明していくという形をとっているのですが、この部分は違います。
会計学の基礎知識とあるように、簿記全体をまとめるルールというか、その元になる概念や知識が書かれています。例えば以下のような内容です。
p.187
会計公準
会計公準とは、企業が会計を行ううえでの基礎的前提をいいます。会計公準には、(1)企業実態の公準、(2)継続企業の公準、(3)貨幣的評価の公準の3つがあります。
(1)企業実態の公準
企業実態の公準とは、企業は経営者のものでも、株主のものでもなく、1つの独立したものであり、この独立した1つの単位として会計を行うという前提をいいます。
(2)継続企業の公準
継続企業の公準とは、企業は解散や清算を予定しておらず、永遠に活動するものであるという前提をいいます。
したがって、会計を行うには、永遠に続く全期間を1年や半年、四半期に区切る必要があることを意味します。
(3)貨幣的評価の公準
貨幣的評価の公準とは、企業の活動はすべて貨幣額によって計算するという前提をいいます。
『スッキリわかる日商簿記1級 商業簿記・会計学 (1) 損益会計編 第5版 』から引用
このような決まりがあるからこそ、企業は1年単位や四半期単位で決算を区切っているというわけですね。
これまでであれば、ケースごとの仕訳を覚えていけばいいという発想でした。しかしそれだけではなく、「それを構成するための背後にある概念やルール」も理解しなければいけないようです。
簿記1級を勉強する前から、仕事をする中で「経理ってたぶん簿記を覚えるだけでなく、それ以外にも法務的な知識が必要そうだな」とは感じてはいました。
ただそれが具体的にどういったものなのかというのが、自分の中では明確なものにはなっていなかったので、今回のような「会計学の基礎知識」という部分を知ることができて良かったなと感じています。
建設業会計という新しい会計処理
簿記1級から新しく出てくるのが、この「建設業会計」という新しい会計処理です。
本来であれば「えっなにこれ!?」といった感じで初見の時にありがちな大きな抵抗感から以前の自分であればテキストを放り投げていたかもしれません。
ですが、実は自分は当時在籍していた会社の業務上の都合から「建設業経理検定」の勉強をしていた経験があります。
また中小企業診断士の試験の中にも、少しだけ建設業会計が入っていたので全くの初見ではありません。
簿記2級から普通に簿記1級に進んだ人は戸惑うのではないかと思い、ここで取り上げてみました。
「建設業会計」といっても特に難しいものではなく、自分の感覚では次の2点を把握してしまえばこの分野は大丈夫でしょう。
- 工事進行基準と工事完成基準
- 建設業特有の勘定科目
この2点について簡単に説明していきます。
工事進行基準と工事完成基準
建設業会計には工事進行基準と工事完成基準というルールがあります。要は建物を全て建設できてからお金をもらうか、それとも途中途中できた分だけお金をもらっていくか、というものです。
もう少し詳しく書くと、次の条件から工事の進捗度に応じて工事進行基準を適用できます。
- 工事収益総額
- 工事原価総額
- 決算日における工事進捗度を信頼性をもって見積ることが出来る場合
逆に、次の条件から工事の完成・引渡時に収益を計上する方法である工事完成基準が適用されます。
- 工事収益総額
- 工事原価総額
- 決算日における工事進捗度を信頼性をもって見積ることが出来ない場合
ここで少し話が脱線するのですが、この部分を勉強したことで、なぜ建設業に大型倒産が多いのかが少しわかった気がしました。
要は「資金繰りが悪い」ということです。例えば「家」とか「大きなビル」といった建物ってそれほど短時間ではつくることはできないですよね。素人でもその建物ができるまで何ヶ月とか何年とか時間がかかるというはわかります。
極端な話、その建物が「1年後」にできる予定であったとして、工事の契約をして1年後の建物ができた後に代金を受け取るとした場合を考えてみます。
企業というのは日々取引をしているわけですから入ってくるお金もあれば、もちろん出ていくお金もあります。例えば毎月従業員の給料を支払うために毎月一定量のお金が会社から出ていきます。
それ以外にも現場の人間の交通費とか交際費など毎日出ていくお金もあります。会社から出ていくお金は毎日あるのに、入ってくるお金が仮に大きなものだったとしても、それがかなり期間をおかないと入ってこない性質の取引だったらどうでしょうか。
企業同士の日々の取引において6か月以内に2度の不渡り(請求に対して支払えなかった場合等)を出すと「銀行取引停止」の処分を受けることになります。
この処分を受けると金融機関と当座預金取引・貸出取引(融資を受けること)が2年間できなくなる、というルールが存在します。これが何を意味するかというと「倒産」です。資金を回収できる期間があまりに長いと資金ショートを起こして倒産してしまうわけです。
つまり資金を回収する期間が長い「建設業」という業界の日々の取引というのはこういった危険を孕んでいるということです。また逆に考えると「外食産業」って資金繰りの面で強いなと、この部分を勉強して思いました。なぜなら「現金取引」だからです。
誰でも一度はどこかの飲食店に行ったことはあるでしょう。何か注文をした時、もしくは食べ終わった後などレジでお金を払いますよね。
つまり、商品を「すぐに現金化できる」わけです。何か突発的な大きな支払をしないといけない時があったとしても、日々の取引ですぐに現金化できているので、対応しやすいというわけです。
外食産業というのは、確かに現場で働く人にとってはブラックな環境なのですが、経営面、資金繰りの面では非常に有利な業界と言えると思います。
建設業特有の勘定科目
通常の簿記では
- 売上高
- 仕入高
- 売掛金
- 買掛金
といった勘定科目が使われます。
建設業会計ではそういった勘定科目に対応する「別の勘定科目」が使われるということです。簡単に一覧にしてみると次のようになります。
製造業(商品売買業) 建設業
- 売上 → 完成工事高
- 売上原価 → 完成工事原価
- 仕掛品 → 未成工事支出金
- 売掛金 → 完成工事未収入金
- 買掛金 → 工事未払金
- 前受金 → 未成工事受入金
完成工事高は工事の全てが終わり、工事が終わった現場や建物を取引先に納品した時に計上される科目で、完成工事原価はそれに対応する原価です。
未成工事支出金は工事に使う材料を仕入れる時などに計上される科目で、完成工事未収入金は工事が終わって取引先に納品した時に計上される科目です。
工事未払金は工事請負中に発生した外注先や取引先に対する未払金で、未成工事受入金は工事を始める前に請負代金の一部を顧客から事前に受け取った時に使われる科目です。
建設業会計において、こういった部分を押さえると理解が早く進むと思われます。
以上、簿記2級から簿記1級に入っていく上で『スッキリわかる日商簿記1級 商業簿記・会計学 (1) 損益会計編 』の中から気づいたことを書いていってみました。






















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