解雇規制の撤廃が困難な理由は日本の主要な産業に大きなダメージを与えるかもしれないから

以前からこのことについては考えていました。昨今日本のニュースでもよく話題にあげられる「同一労働同一賃金」「解雇規制の撤廃」などがあります。

 

10年以上前から「ホワイトカラーエグゼンプション」なることについてもなかなか進んでいないようです。

 

どうやらこうった政策の背景には、日本の「生産性」というものが問題となっているようです。しかしこの問題の解決がなかなか進みません。日本の政府は働いていないのでしょうか?いえ、必ずしもそうではないと思います。

 

以前からこのことについて考えていたことを書いていってみます。

「同一労働同一賃金」や「解雇規制の撤廃」について

日本の企業は世界の企業に比べて生産性が低いということが、ここ最近問題視されるようになってきました。といっても、生産性が外国より低いことは別に今に始まった問題ではありません。

 

そういった問題を解決するためのいくつかの方法として「同一労働同一賃金」や「解雇規制の撤廃」を日本の企業に導入していこうという動きがあります。

同一労働同一賃金(どういつろうどうどういつちんぎん、英:equal payfor equal work)とは、同一の仕事(職種)に従事する労働者は皆、同一水準の賃金が支払われるべきだという概念。性別、雇用形態(フルタイム、パートタイム、派遣社員など)、人種、宗教、国籍などに関係なく、労働の種類と量に基づいて賃金を支払う賃金政策のこと。

 

正規社員の解雇規制緩和論(せいきしゃいんのかいこきせいかんわろん)とは、正規社員の整理解雇に関する規制が非正規社員に比べて強いことが、日本の労働市場に正規と非正規の二重構造を作り出し歪ませているため、これを緩和するべきという規制緩和論の一つ。

外国と比べた日本の生産性の低さ

矢印が下がるグラフ

こういった解決策が話題にあげられる背景には、日本の生産性の低さが問題とされています。具体的には「公益財団法人 日本生産性本部」が出されている以下のPDFの3ページ目を引用してみます。

Click to access intl_comparison_2016.pdf

国民1人当たりGDPによって表される「経済的豊かさ」を実現するためには、より効率的に経済的な成果を生み出すことが欠かせない。それを定量的に数値化した指標の1つが労働生産性である。

 

(図3)のOECD加盟諸国の労働生産性(2015年/35カ国比較)において日本の順位は21位のギリシャに次いで「22位」となっています。

 

主要先進7カ国(アメリカ・イタリア・ドイツ、カナダ、イギリス・フランス・日本)においては日本は最下位となっています。

 

財政破綻の危機に瀕したギリシャに次いでの順位となっていますが、これは現在のギリシャの失業率が20%代となっているためです。

 

日本よりかなり雇用調整が進んでおり、就業者の大幅な減少が労働生産性を押し上げる格好になっていて、その分ギリシャの方が生産性が高く出るようになっています。

 

そのため日本とは経済環境がかなり異なり、スペインや他の日本より生産性の高い国の中にも同様のことが言える所もあります。

 

日本も解雇規制の緩和や撤廃を進めれば、ギリシャやスペインよりも生産性は高くなるものと思われます。

 

じゃあ実際「それができるのか?」と聞かれた場合、非常に難しいでしょう。

なぜ「同一労働同一賃金」や「解雇規制の撤廃」が難しいのか

単純に労働生産性を上げるのであれば、「解雇規制の撤廃」をして、生産性の低い人を解雇していけばいいと思うかもしれません。ですが現実問題としてそれは難しいでしょう。なぜなら自分は次のように考えるからです。

 

わかりやすく言うと、「日本の中高年の世代と日本の主要な産業が、ある意味『一蓮托生』的な関係だから」です。というのも、日本の中高年の世代というのは「抱えている」ものがたくさんあります。

 

それは例えば以下のようなものです。

  • 子ども(教育費や生活費)
  • 家(住宅ローンや保険)
  • 車(自動車ローン、保険、車検、その他維持費)
  • 保険(生命保険、がん保険、火災保険、地震保険、盗難保険)
  • 様々な人間関係(付き合いでの飲み会やゴルフ等)
  • 住宅ローンなどを支払うための銀行からの借金

以上のものが中高年の世代が抱えているものと、それに伴って予想される出費などです。えぇ、抱えすぎですね。

 

こういった人たちがたくさんいる日本で解雇規制の緩和や撤廃がなされるとどうなるでしょうか。

 

高い給与をもらいながらそれに見合わない成果しか出せない人はたくさんリストラされていくのではないでしょうか。ここからが問題です。

 

上記にあげた中高年の世代と関係する業界のことを考えるとそう簡単に企業に切らせるわけにはいかないのです。

 

例えば解雇規制が撤廃されて、日本の多くの企業が給与の高い中高年の世代を大量にリストラしたとします。そうするとその世代の収入がなくなり、そこから今まで流れていたお金の流れも滞ります。

 

例えば以下のような業界へのお金の流れが滞ります。しかも大規模に。

  • 子ども(教育費や生活費)
  • 家(住宅ローンや保険)
  • 車(自動車ローン、保険、車検、その他維持費)
  • 保険(生命保険、がん保険、火災保険、地震保険、盗難保険)
  • 様々な人間関係(付き合いでの飲み会やゴルフ等)
  • 住宅ローンなどを支払うための銀行からの借金

教育費であれば、小学校、中学校、高校、大学などへの学費や子どもの部活動のための費用や生活費。教育業界への多大な影響が考えられます。

 

家に住み続けるための住宅ローン。不動産業界にへの多大な影響が考えられます。

 

週末のちょっとした旅行や、なんらかの家族の送迎、もしくは仕事のために使うための支払う必要がある自動車ローン。自動車業界への多大な影響が考えられます。

 

もしものときのための保険代。保険業界への多大な影響が考えられます。

 

様々な人間関係を維持するために使っていた飲み代やゴルフなど、そういったもの以外に関連する支払い。飲食業界等への多大な影響が考えられます。

 

様々なローンや保険代などを支払うために銀行から借りていたお金。銀行業界への多大な影響が考えられます。

 

解雇規制の撤廃がなされると、間接的に以上のような業界にお金が流れなくなっていくでしょう。そうなると、そういった業界も売上が大幅に減少していくことになるので、それらの企業も人件費を支払えなくなっていくでしょう。

 

そうなると、解雇規制の撤廃も相まって連鎖反応的に他の企業もリストラをしていくでしょう。そうなるとまた連鎖反応的に・・・というように負のループができてしまい、治安の悪化も進んでいって、今のギリシャやスペインのようにどうにもならなくなるところまでいってしまうかもしれません。

 

リストラされても、その人たちがスムーズに他の産業や企業で仕事に就ければ問題ないとは思いますが・・・。

現状のままでよいのか?「構造調整」という視点

『「同一労働同一賃金」や「解雇規制の撤廃」をすると日本の産業に大きな影響がある』からといって、今の大規模護送船団方式のままでよいのでしょうか。

 

世界が日本という国だけだったらまだいいかもしれませんが、「現実」というのが良くも悪くも残酷であり、世界には200か国近い国があります。

 

個人レベルでも生物種レベルでも国レベルでも「現状維持」というのは許してはくれないのです。

 

世の中には「構造調整」という言葉があります。「生産性」という視点以外にもこういった視点からも解雇規制などの解決策が考えられていると思われます。

構造調整とは

「生産性の低い分野から、生産性の高い分野に資源(資金、労働力等)を移転させることを意味する。この移転は摩擦なく行われることが望ましいが、

 

実際には低生産性部門から解放された資源が、高生産性部門に吸収されるまでには時間がかかるので、その過程で活用されずに滞留する資源が生じる可能性が高い。

 

このような損失を調整コストと呼ぶならば、この調整コストを最小にすることは、国民の厚生を向上させるための重要な課題である。 」

年次経済財政報告から引用→第4節 構造調整と雇用・賃金

「経済」という視点において、人の寿命と同様に産業にも寿命があります。国を維持発展させていくためには、古くて衰退している産業から新しく発展している産業に人がスムーズに移動してくれることが本来であれば望ましいことです。

 

しかし現実にはそう上手くはいきません。例えば今回の記事で書いたように、ある一定の世代と国の主要な産業が一蓮托生のような関係になってしまっている場合があります。

 

他にも年功序列や終身雇用という制度から、ある意味「その企業でしか生きられないような人が多く生み出されてしまっている」とも言えます。

 

そういった状況から「構造調整」を進めるために「解雇規制の撤廃」や「同一労働同一賃金」を導入したいが、それを実行した場合、

 

『なぜ「同一労働同一賃金」や「解雇規制の撤廃」が難しいのか』の項目で書いたような大きな影響が考えられてスムーズには構造調整できない、

 

そして雇用の受け皿がない、などの理由からこの解決策は難しいと思われます。

 

以下がこの記事の続きです

コメント