最近アラン バートン=ジョーンズの『知識資本主義―ビジネス、就労、学習の意味が根本から変わる 』の次の文章を読んでなるほどと感心した部分があります。それが次の文章です。
p.208
図7-1に示されているように自立型コントラクターの知識は、依存型コントラクターの知識と異なり、企業固有のものではない。たとえば、医師や弁護士、エンジニア、会計士、情報技術(IT)者などは通常、業務を遂行するうえで、特定の顧客に限定された知識には依存しない。
確かに、個々の顧客との関係においてはそうした知識も必要だが(医師が患者を診察する際には、その患者のデータが不可欠だ)、それがないからといって病院運営に支障を来すわけではない。
このことからもわかるように、自立性を確保するためには知識を自給自足できることが重要である。
ほぉ、「知識を自給自足する」という発想か。なるほど。最初この言い回しを見たときは目から鱗でした。そういった発想もあるのか、と。今回の記事ではそのことについて書いていってみます。
第三次産業の人口の拡大から徐々に知識社会に移行しているという兆候
このブログでは以下のような過去記事を書いていきました。
自分がいろいろ調べたり経験した範囲で、この世界が農業社会→工業社会→情報社会→知識社会、という風に社会が進化しているのではないかといったことを書いています。
このように社会が移り変わっていくと、第二次産業が縮小していって、代わりに第三次産業が拡大してきます。
ちなみに第△次産業といったものは、コーリン・クラークによる古典的な産業分類の一つです。主な例を整理すると以下のような感じになります。
■第一次産業
- 農業
- 林業
- 漁業
■第二次産業
- 製造業
- 建設業
- 電気・ガス業
- 工業
■第三次産業
- 小売業
- サービス業などの無形財を扱う産業
最近の各種統計では、例えば第三次産業の例としては以下のようなものがあります。
- 整体師
- 歯科医師
- 美容師
- コンビニ
以上の例は増加の一途を辿っており、もっと言えば現在は飽和状態のようです。確かにそれは感じます。外を出てちょっと歩くと、すぐに美容院の一つや二つ目にしますし、歯医者の看板や建物もよく見かけます。
「第四次産業」「第五次産業」の拡大
以前の自分であれば第三次産業で産業分類はこれで全てだと思っていました。ですがインターネット上を調べてみると「第四次産業」「第五次産業」というものもあるようです。
この産業分類では、社会における知的組織が当てはまるようで、例えば以下のような例になります。
- 政府
- 調査機関
- 文化団体
- IT(情報関連産業)
- 教育組織
- 芸術、文化
- 高等教育
- 科学技術
「第四次産業」と「第五次産業」をどういった基準で分ければいいのか、というのは自分の中で曖昧なのですが、「第四次産業」よりも「第五次産業」の方がより「高度」なもの、という認識で良いのではないでしょうか。
確かに現在の日本の開業率において、情報通信業は高い数値を出しています。例えばプログラマーやSEなどが当てはまるでしょう。
高度な技術に対して知的財産を保護する知財に関する特許の取得も近年重要視されています。こういった分野は将来の成長が期待されており、徐々に高度な産業への「シフト」が一人ひとりに必要になってくるのではないでしょうか。
初期の生物の進化の事例から考えてみる
冒頭の文章では、『知識資本主義―ビジネス、就労、学習の意味が根本から変わる 』という本から「知識を自給自足する」という文があったと書きました。
この言い回しから「生物の進化」のことがふっと頭に浮かびました。地球が誕生したのが今から約46億年前と言われています。
さらに地球上に生命が誕生したのが約40億年程前と言われています。生物というのは生まれてから現在まで様々な環境変化を潜り抜けてきました。
その環境変化に対応するために、生物というのは多種多様に進化を繰り返してきて現在まで至ります。
環境変化を潜り抜けるための「進化」が現在の我々に求められているということなのではないかぁと感じました。そのことについてここでちょっと具体例を挙げてみます。
この地球上に存在する植物の多くは太陽の光を光合成という活動を通して栄養源にしています。地球が誕生してからの歴史で、植物も最初は太陽の光を栄養源にしていたわけではありませんでした。
その植物も元を辿れば、海で誕生した微生物だったわけです。こういった部分は多くの人は学校の歴史や生物、理科の授業などで地球の歴史について学んで、なじみがあるのではないでしょうか。
地球上に誕生した初期の生物は全て単細胞だったと言われています。これらの生物ははじめ, 海の中を漂う有機物を利用し,嫌気呼吸つまり酸素を使わずに生息していました。
しかし有機物には限りがあり, やがて自分で栄養を作り出す手段が必要となります。これが光合成の始まりです。約35億年前に藍藻植物(シアノバクテリア)がその担い手として登場。光合成で無機物である二酸化炭素と水からブドウ糖などの有機物を作り出すことができるようになりました。
自分でエネルギーを作り出す仕組みを獲得したことにより、生命はより大きなエネルギーを獲得し、細胞を大型化させることが出来るようになります。このようにして単細胞生物は生存を可能にし、多細胞生物に進化していきます。
人間が生きていくための新たな栄養源としての「知識」という発想
つまり何が言いたいかというと、人間が今後生きていくための栄養源として「知識」を効果的に消化し、よりよく生きていくための糧としていかなければならないのでは?と思っています。
ここ最近は政府や企業に依存することの不安定さについて多くの意見が叫ばれています。年金の受給年齢もまだはっきりと言われたわけではないですが、社会保障費の毎年の増加や保険料の支払いの増加を見れば、受給年齢の引き上げも今後十分あり得ることだと思われます。
最近の電通の事件や、正社員として働くことの疑問も大きくなっています。もし本当に企業に正社員として入れれば安泰であるのであれば、ここまで美容師や整体師、歯科医師、士業の人口が年々増加するということはあり得ないはずです。
ですが、現実問題として、飽和状態とまで言われています。やはり一人ひとりが企業で働き続けることの問題を少なからず認識しているというこでしょう。
今後は社会の移り変わりや新たな産業分類に一人ひとりが対応していく必要があると思っているのですが、その中で自分が重要だと思っているのは、まさにこの「知識の時給自足」という発想です。
要は「今後は自分からどんどん学んでいかないといろいろ苦しむ」ことになる、と思っています。ドラッカーの『ポスト資本主義社会―21世紀の組織と人間はどう変わるか 』には次のような文章があります。
p.306
しかし知識の経済活動への適用には、すでに4章までで触れたように、三つの方法がある。
第一に、生産工程、製品、サービスの絶えざる向上への知識の適用である。これを最もよく行っている日本で「カイゼン」と呼ばれているものである。
第二に「開発」への知識の適用である。すなわち、全く新しい異なった生産工程、製品、サービスへの既存の知識の継続的な利用である。
第三に「イノベーション」への知識の適用である。
つまり「知識」の重要性の認識と、それをいかに自分の生き方に上手く活用できるか、そしてそれを積極的に獲得していく、という発想が政府や企業に依存せず「自立」して働くために必須な考え方となるのではないでしょうか。
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